MC:今年は埼玉県の大会だけでなく、関東オープンにも出場したと聞きました。ずいぶん思い切りましたね。

G:いや、殆ど物見遊山ですよ。関東オープンでは70キロ級に出場したのですが、大体30人強のビルダーがエントリしています。ピックアップ審査で10人が抽出されて、そこから本戦が始まります。もちろん私がピックアップされるとは思っていません。ダブルバイセップスで両脇の選手が私の前に迫り出してくるのに対抗して前に出ようとも思いませんでした。ピックアップ審査では当落線上のビルダーが主役です。どのくらいのビルダーがその当落線上に立てるのか、それをステージ上で間近に見れたことは今の私にとって変えがたい経験となったと思います。

MC:いい経験になったということですか。随分と気楽ですね。

G:まぁそう言わないで下さい。私たちは普段、依頼者からお金を貰って仕事をしています。負けることが決して許されないんです。だからという訳ではないですが、私が大敗を喫しても誰に迷惑をかける訳ではない。すべて自己完結しています。こんな快楽ってないですよ。

MC:でも、快楽という割には減量に苦しまれていたと聞きました。減量に関して、昨年と比べて変わったことはありましたか?

G:あまり自分の苦しみを曝け出すのは好きではありません。「あいつは快楽主義者だ。」って後ろ指を刺されている位の方が好きなんです。ただ、今年の埼玉には階級を落として65キロ級で出場したので減量は例年よりだいぶ苦労したように思います。基本的に夜トレーニングするんですが、炭水化物はその直前に纏めて摂るようにしていました。

MC:それ以外の炭水化物はカットですか?

G:いいえ。昼過ぎにおにぎりを一つ、ささみと一緒に食べてました。日が暮れて来ると糖が切れ、思考力が急激にダウン停止するのが分かるんです。依頼者に迷惑は掛けれませんから、朝早起きして糖が切れるまで必死になってやってました。ただ減量期の方が頭は冴えてたかもしれませんね。

MC:ホントですか?

G:これがホントなんです。朝ハイファットミルクにプロテインを30g溶かし、さらにMCTオイルで脂肪を乗せたものを飲みます。その後ブラックの缶珈琲500ccを一気飲みした後、もう一本開けてフィッシュオイルの大粒一個を口に入れてそのまま流し込みます。9時過ぎから立て続けに電話が掛かってくるので、5時に起床してそれまでがひと勝負です。訴状などの書き物は9時まで自宅で一気に仕上げてしまします。

MC:白米は食べないんですか?

G:シーズンが終わった今は食べてます。理由はよく分かりませんんが、日中眠たくて、気怠い感じがしますね。個人的に白米が合わないのかも知れません。でも、おにぎりって美味しいですよね。おにぎり中毒って言う表現が妥当かどうかは分かりませんが…。

MC:私は完全におにぎり中毒です(笑)。減量には成功しましたか?

G:成功したと言えば、成功したかも知れません。軽量をパスしましたからね。久しぶりに60キロ代を体重計で見たときは本当に感動しました。入隊2年目、26歳でレンジャー訓練に挑戦したときは毎朝体重測定があったんです。大体64キロでしたから、大会前日の計量時にはレンジャーの時と同じ体重になったということになります。でも、仕上がりは散々でしたよ。減量中「小さくなっちゃったね。」とよく周りの人から言われました。内心「バカなこと言うな。絞ってるんだよ。」と反論していましたが、敢えて何も言いませんでした。ステージで見返せばいいと思っていたからです。でもコンテスト当日、バックステージでいくらプッシュアップしても丸っ切りパンプしない自分の筋肉を見て、反論しなかった自分を心から褒め称えました。絞るにもテクニックがあり、ただ体重を落とせばいいという訳ではありません。階級を落としたことによって、そのことが骨身に沁みました。

MC:誰かアドバイスしてくれる人はいなかったんですか?

G:私はジムでは殆ど誰とも話さないんです。もちろん駐屯地にもジムはありました。だけど必ずと言っていいほど上官が話し掛けて来ます。退官して実家の近くにあるゴールドジムに行った時、誰にも敬礼しなくていいことに新鮮に喜びを感じました。だったら挨拶をするのもやめてしまおうと積極的に自分から話さないようにしていたら、誰にも話しかけられず話さないことが習慣になってしまったんです。それと、ジムには30分以上いません。ボディビルを始める前のトレーニングでは30分をどれだけ創造的に過ごせるかを日々挑戦していたんです。どうやらそれも習慣になってしまったようですね。

MC:ジム通いと仕事を両立に悩むトレーニーが私の周りにもいます。30分と決めてトレーニングをするのはいいかもしれません。それなら仕事との兼ね合いに悩むことはありませんね?

G:ここでは「ない。」と言わせておいて下さい。私は事務所だけで依頼者と連絡を取る大方のタイプの弁護士とは異なり、iPhoneで直接依頼者とコンタクトします。私の依頼者は「お休みのところすみません。」とか「夜分に失礼します。」と言いながらひっきりなしに私に電話やメールを寄越して来る我が儘な人ばかりです。私がジムに入り浸っていたらきっと私との契約を解除すると言い出すでしょうね(笑)

MC:30分くらいだったら大丈夫だと。

G:ダメかもしれません!でも、自分の肉体、もっと言えば自分の心をメンテナンスしてくれるのは自分だけです。話は変わってしまうかもしれませんが、依頼者がなぜ星の数ほどいる弁護士の中で私と契約してくれたのか、そのことを考えることがあります。私が全くトレーニングせず、委員会を口実にして弁護士同士で酒ばかり飲んでいたら果たして私と契約してくれていたかどうかを考えるんです。私は弁護士とは殆ど酒を飲みませんが、依頼者とはよくお酒を飲みます。この前、お酒の席である依頼者にそのことを聞いたことがありました。

MC:なんて仰いましたか?

G:一番最初に電話に出たからです、と言われました(笑)

MC:一期一会ですね。さてシーズンを終えて、トレーニングの方で何か変化はあったでしょうか?

G:積極的にトレーナーの指導を仰ぐようになったと思います。例えば、レッグエクステンション一つとっても、内側広筋のティアドロップを狙うのか、大腿直筋を狙うのかではフォームもウエイトスタックの枚数も変わって来ます。そういうのは本には書いていても、なかなか実行するまでには至りません。特に、私のような自衛隊上がりで生半可な知識を持っていると、「あぁそうなんだ。」とは思っても「それじゃあやってみよう。」ということにはならず、結局ただ単にやってしまっていたように思います。

MC:負けを痛感し、漸く人の話を聞くようになったという訳ですね。

G:そうです。ただ、筋肉というのは筋肉自身が「このままじゃもうダメだ。」と限界を感じて初めて発達を遂げるものです。挙がらなくなって、それから何回追い込めるかが、筋発達の分水嶺になって来るのはどんなトレーナーが付いても同じです。その境地に辿り着くにはやはり、やるかやらないかの瀬戸際でやることを選択し、それを続けるしかないと思います。

MC:ストイックですね。ところで今年で42歳になるそうですが、年齢は感じてますか?

G:歳だ歳だと言ってますが、実はあまり感じてません。体でどこも痛いところがないんです。30代の殆どを脚を引き摺って生活していましたから、体感年齢は今の方が若いんじゃないかと思います。ただ、見た目は老けてますよ。二度目の結婚は無理でしょうね。

MC:いま結婚の話が出ましたが、男性側の離婚弁護士として御活躍されているそうですね。

G:活躍しているかどうかは分かりません。男性側の弁護士になったのはたまたまなんです。自衛隊御用達の弁護士になろうとしたのは確かですが、来たのは隊員の厄介な男女トラブルばかりでした。でも、殆ど全て自力で解決したんです。法律は知っているだけでは何の役にも立ちません。使えないと意味がない。さらに、法律を使うと言っても、大概相手も同じように法律を使えます。最後にモノをいうのは生命力だと思っています。

MC:生命力の高さには自信があると?

G:それを私に尋ねないで下さい。ただ、その目に見えない生命力を日々鍛えようとしていることは間違いありません。元レンジャー隊員と言っても10年も経てばただの人です。それに胡座を掻くようになったらすぐに看板を下ろしますよ。

MC:あっという間に予定の時間が過ぎてしましました。本日は有難うございました。